

1► 2024上海国際デジタルミュージックウィーク
今回の音楽週間には、世界各地の音楽クリエイター、トッププロデューサー、著名な研究者・専門家、そして情熱あふれる若手人材が集結し、デジタル音楽の可能性を探る旅へと出発しました。Castalia Audioは招待・協力という形で参画し、ゲーム音楽界の第一人者である宮野幸子氏・岩垂徳行氏・工藤吉三氏の3名による講演を実現。音楽制作と仕事にまつわる貴重な知見を共有していただきました。
なかでも宮野幸子氏は、ベテランのオーケストラ編曲家として『FF』『KH』『NieR』などのゲーム音楽、また『鬼滅の刃』『原神』『ポケモン』などのシンフォニックコンサートを手がけてきた存在です。講演では自身のキャリアと編曲家に求められる素養から始まり、DTMと生演奏の違い・楽譜化の考え方、DAWから楽譜ソフトへの編曲プロセスを解説。弦楽四重奏によるライブ演奏を交えながら演奏クオリティの向上について議論し、「構想を楽譜に落とし込む」ことの重要性を軸に、参加者との活発な交流が生まれました。
それでは、宮野幸子氏の講演の様子をご紹介します。

2► 登壇者:宮野幸子
東京藝術大学音楽学部作曲科卒。編曲家・オーケストレーターとして、久石譲・梅林茂・蓜島邦明らの映像作品に参加。『LOVERS』『2046』などの中国映画や海外プロジェクトにも多数携わるほか、嵐・松田聖子、milet・ReoNaらのJ-POPおよびアニメ楽曲の編曲も手がける。近年は椎名豪氏による『鬼滅の刃』アニメ・劇場版・コンサートシリーズの編曲に参加。『FINAL FANTASY XIV』『NieR』『聖剣伝説』『ポケモン×NHK交響楽団 特別管弦楽演奏会2023』などのゲーム音楽コンサートにも携わる。『原神』稲妻篇では日本レコーディングディレクター、原神シンフォニックコンサートでは音楽監督・編曲を担当。2010年より音楽制作会社Shangri-laの代表取締役を務める。
3► 独学から編曲家へ——宮野幸子氏の歩み
宮野氏は、ゼロから独学でオーケストラ編曲の世界に入り、キャリアを築いてきた歩みを語りました。当初はオーケストラとの共同作業の経験がなく、主にDTMを用いた音楽入力とオーケストラ風編曲が中心でした。大学では作曲理論や楽譜制作を学んだものの成績は平凡で、むしろDAWの操作に強みを見出したといいます。音楽大学の学生に向けては、演奏科の学生と積極的に交流し演奏経験を積むことを勧めました。現在は作曲家のビジョンを音楽として実現するサポートに注力しており、他の作曲家との協働を通じてさらなる経験を積みたいと語りました。
4► 音創杯作曲コンクール審査の経験と音楽制作への考察
宮野氏は音創杯作曲コンクールの審査員を務めた経験と、応募作品から得た気づきを共有しました。参加者のレベルは予想をはるかに上回るほど高く、編曲・楽譜制作スキルの重要性を改めて実感したといいます。音楽的な才能は努力だけでは補いきれない部分もある一方、編曲・楽曲制作・楽譜制作といった技術的なスキルは、努力によって大きく向上できると強調しました。
続いて、楽譜ソフトの使用経験を共有し、生演奏とデモ音源の違い、そのギャップを技術向上によってどう埋めるかについて議論。最後に、実際の演奏と想定のズレを解消する手段として、ライブ演奏によるデモンストレーションの有効性に言及しました。
【楽譜展示】

5► オーケストラ編曲と弦楽四重奏のアレンジ——『原神』を例に
宮野氏は今回のデモンストレーション用楽曲について、当初はオーケストラ編成を想定していたものの、実際には弦楽四重奏として準備したと説明。四重奏ならではの繊細な味わいと緊張感を強調しつつ、音域の選択や各楽器のバランスなど、編曲時に注意すべき点を解説しました。特に『原神』のテーマ曲を弦楽四重奏へアレンジした例を取り上げ、DAWでのデモ音源制作のプロセスを共有しました。
「編曲を始める前に、考えておかなければならないことがたくさんあります。何も考えずに始めてしまうと、後になって問題が次々と出てきてしまいます。」
「たとえばオーケストレーションを行う際、まず調性を決めます。弦楽四重奏では音域が平坦にならないよう注意が必要で、各楽器がそれぞれ輝ける見せ場を作ることを意識します。また、曲の最も盛り上がる場面でチェロに開放弦を使うなど、さまざまなことを検討した結果、原曲と同じGメジャーに決めました。」
その後、選定した調性をもとに制作したデモ音源が会場で披露されました。
6► 弦楽四重奏ライブ演奏と実践フィードバック
実際の演奏では、楽譜に強弱記号や表情記号が不足していたり、音符の長さが意図と異なるといった問題が生じやすいと指摘。宮野氏は、伝えたい表現はすべて楽譜に書き込み、演奏者がそれを読み取って演奏できるようにすることが重要だと述べました。
その後、上海音楽学院の学生による弦楽四重奏のライブ演奏が行われ、宮野氏と聴衆が演奏について意見交換。木管楽器のメロディを弦楽器用にアレンジする方法や演奏技術の改善点についても議論が交わされました。演奏の締めくくりには、聴衆からのフィードバックと編曲家のアドバイスが演奏者にとっていかに重要かを、宮野氏が改めて強調しました。

7► 演奏と編曲における課題と向き合い方
コンサートに向けた準備において、演奏者と編曲者はオーケストラのレベルや環境が演奏に与える影響を考慮する必要があると宮野氏は語りました。編曲の際は演奏者に不必要なプレッシャーをかけないよう心がけ、難しい箇所は調整や担当変更で対処することも一つの選択肢。作品の難易度を正確に把握したうえで、オーケストラとの十分なコミュニケーションと準備時間を確保することが、演奏クオリティを左右すると強調しました。
また、日本と中国のような異なる文化的背景を持つ演奏者に対しては、指導方法を柔軟に調整することが重要であり、演奏者への敬意と理解が最良の音楽表現につながると述べました。
質疑応答では、作曲家と編曲家それぞれの道についての見解も共有。好きなことを積極的に探求し、作曲であれ編曲であれ、人一倍の努力を惜しまないことを参加者に呼びかけました。
「作曲家というのは、"曲を書きたい"という強い内なる欲求を持った人だと思っています。私自身は作曲にはあまり興味がなく、楽譜を読んで音符を研究することが好き。だから自分の音楽的知識を編曲に活かしたいと思っています。」
「自分の書いた音楽を、どんな形であれ世に出して、より多くの人に聴いてもらい、演奏してもらうことが大切です。」
以上が今回の講演の概要です。引き続き、他の2名の作曲家の講演レポートも順次公開予定ですので、どうぞお楽しみに。
8► お問い合わせ
すべてのゲームサウンドを、時代を超えて愛される芸術作品へ——それがCASAの変わらぬ想いです。今回のIDMF講演にご登壇いただいた先生方は、CASAのコンポーザーチームのメンバーでもあります。コラボレーションのご相談など、お気軽にご連絡ください。
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